
この項目では鳥や飛行機の翼について記述しています。他の
翼を名前としたものについては
つばさをご覧ください。
翼(つばさ、よく)とは、流体との相互作用によって効率よく揚力を得られるような形状をした物体のことである。
狭義には、鳥や航空機などの飛翔体が備え、空気中での飛行のために使用される構造を指す。プロペラやローターなどの回転翼も同様の原理を利用している。
飛行に関係ないところでは、産業用の圧縮機や風力原動機(この場合は風から動力を得る方だが)のブレードなども回転翼として理解することができる。原理は同じであるが、翼における揚力の向きが垂直方向であるのに比し、帆の一形態である縦帆では水平方向である。また、レーシングカー等に取り付けられるウイングは、航空機の翼を上下逆さにした様な断面を持ち、航空機の翼と同様の原理で下向きの力(ダウンフォース)を発生させ、車体を地面に押し付ける役割を果たす。なお、空気中だけではなく水中翼船の水中翼や、アシカやウミガメの前肢、マンボウのひれのように、水中で揚力を発生する構造も翼である。 転じて、左右相称の建築物で、中心となる部分から左右に伸びる部分を「東翼」(とうよく)などと呼ぶ。例えば、羽田空港にはビッグバードという愛称があり、「ウィング」と呼ばれる棟で構成される。
翼に関係する用語
簡単な説明のみ記してある。詳細については、各用語のリンク先を参照されたい。
形状関係
- 前縁(ぜんえん)
- 翼の前側のふち。しばしば英語の Leading Edge から LE とも表記される。
- 後縁(こうえん)
- 翼の後ろ側のふち。しばしば英語の Trailing Edge から TE とも表記される。
- 翼弦(よくげん)
- コード (chord) とも。前縁と後縁を結んだ直線。この部分の長さは翼弦長あるいはコード長といい(単に「翼弦」で長さについていうこともある)、数式では c や l などと表記される。
- 翼型(よくがた)
- 翼を翼弦に沿って縦に切った断面のこと。エアフォイル (airfoil/aerofoil)、翼断面とも。流れの性質(速度・粘性など)に応じて様々なかたちが存在し、翼の性能を大きく特徴づける重要な要素。
- 中心線
- 翼の上面と下面から等しい距離にある点を前縁から後縁までつないだ線。
- キャンバー
- 中心線と翼弦線の差。一般的にキャンバーというともっとも差が大きい部分(最大キャンバー)を指すことが多い。キャンバーがある場合、迎角が0度の状態でも揚力を発生する。またキャンバーが0の翼型を対称翼という。
- 翼厚比
- 翼弦と垂直に交わる直線の長さを翼厚といい、最大翼厚を翼弦長で割り百分率になおしたものを最大翼厚比、または単に翼厚比と呼ぶ。
- 翼幅(よくふく)
- 翼の横幅の長さ。スパン (span)、ウィングスパンとも。回転翼の場合、ブレード一枚の長さ。数式では b と表記されることが多い。
- 翼平面形(よくへいめんけい)
- 翼を真上からみたときのかたち。単に平面形とも。テーパ(先細)だったり、楕円形だったり、後退角が付いていたりする。この形状が翼の特性を大きく左右する。詳しくはリンク先を参照。
- 翼面積
- 翼平面形の面積。投影面積とも。翼を平面に投影したときの最大投影面積を翼面積とする。胴体と重なる部分も含めて考える。数式では S で表されることが多い。
- アスペクト比
- 一般には長方形の縦と横の長さの比のこと。細長比あるいはアスペクトレシオとも。翼の場合、(翼幅)2÷翼面積という無次元数で表す。たとえば、ムササビは 1~2、ボーイング 747-400 は約 8、ワタリアホウドリは 15 程度。後述の揚抗比に大きく影響する。ごく大雑把に言うと、翼は細長いほど効率がいい。たとえば長距離の洋上飛行を要求される海鳥は、一般に陸の鳥よりも細長い翼をもつ。数式では AR や A などと表記される。
- テーパー比
- 翼中央部の翼弦長と翼端部の翼弦長の比率。一般的にλ(ラムダ)で表わされる。
- 迎角(げいかく)
- 迎え角(むかえかく)、AoA(えーおーえー、Angle of Attack)とも。翼弦線(コードライン)と流れのなす角度。数式では α(アルファ)と表記されることが多い。揚力の大きさは概ね迎え角に比例して増大する。飛行機の胴体線と翼弦線のなす角である「取付け角 (angle of incidence)」 、進行方向となす角度とは必ずしも一致しない。
- 上反角(じょうはんかく)
- 水平面から斜め上に突き出すように取りつけられた翼の場合に、水平面と翼とがなす角。簡単に言うと、翼がバンザイしている角度。飛行の安定性に関わる要素で簡単に言えば、上反角をつけるとバンクを戻す方向に力が働く。即ち、外力による乱れに対して姿勢を元に戻す復元力が働く。(ただし上反角をつけすぎると、復元力がバンク角を超えてしまい、結果として機体を反対へ倒そうとする力が働き、返って不安定となる。その場合、上反角を減らしたり逆に下反角をつけたり、または尾翼の見直し等の設計調査を行う)
超音速での巡航が要求されたため、
コンコルドの主
翼は薄かった。
- 下反角(かはんかく、げはんかく)
- 水平面から斜め下に突き出すように取りつけられた翼の場合に、水平面と翼とがなす角。下反角をつけると安定性が低くなるため、古くはタブーとされたが、主翼に大きい後退角がある高速ジェット機では後退角による復元力が大きすぎ、下反角をつけて調整する場合がある。特に安定性よりも自在に飛行することが重要である戦闘機は下反角がつけられているものがある。
性能関係
- レイノルズ数
- 物体にとってのまわりの流れの粘りけを示す無次元数。流体の粘性・翼の大きさ・流れの速度によって決まり、翼の性能に大きく影響する非常に重要なパラメター。ふつうは桁単位で表現する。数式では R や Re と表記されることが多い。
- 揚力
- 翼に生じる空気力のうち、流れと垂直な成分。数式では L と表記されることが多い。
- 抗力
- 翼に生じる空気力のうち、流れと平行な成分。数式では D と表記されることが多い。
- 揚抗比
- 揚力÷抗力 (L/D) あるいは 揚力係数÷抗力係数 (CL/CD) であらわされる無次元数。翼の性能を特徴づける重要な値。簡単に言うと、揚抗比の大きな翼は、性能がいいといえる。ただし、揚力や抗力は速度や迎え角などによって変化するため、ひとつの翼でも状態によって変化する。翼だけについてでなく、航空機や鳥など飛翔体全体についても言うことがある。
- 翼面荷重
- 機体重量を翼面積で割った値。つまり翼(の単位面積あたり)が支えるべき重量を示す。
- 失速
- 翼(特に上面)から流れが剥離する現象。ストール (stall) とも。失速=揚力ゼロとは限らない。
翼理論
基本
自家用小型機のような低亜音速機の翼は一般に以下のような断面形状(翼型)をしている:
- 前縁は丸く、前縁から 1/3 程度のところで最大の厚みになり、後縁が鋭利な細長い涙滴形状
- 断面の上下中間を結ぶ線が円弧状
これに似た翼型を持つものが翼と呼ばれたり、このような形状を指して「翼状」などと言うことが多い。しかしながら、現実には使用される流れの性質(速度・粘性など)によって断面形状は様々なものがある。
飛行機などの固定翼機は、翼を備えた機体全体が前進し、翼に風を受けることで揚力を得る。滑空中の鳥なども同じ。詳しい揚力発生の原理、揚力と抗力の関係などについては揚力や抗力を参照。
2次元翼と3次元翼
- 2次元翼
- 均一な翼型(どこを切っても同じ断面形)で、翼幅が無限大の翼を考え、この翼についての流れを議論することがある。このような翼を2次元翼と呼ぶ。翼型の形状のみに注目してその特性だけを議論したいときに想定する。必ずしも空想上の翼というわけではなく、たとえば、風洞で翼型を試験するという場合、均一な翼型をもつ翼の模型を風洞内の全幅にわたって(壁から壁へと)取りつけ、中央付近では翼幅の影響を無視でき、2次元翼とみなせるとして取り扱ったりする。
- 3次元翼
- 現実に使用される翼は長さが有限である。翼平面形や上下方向の変化(上反角)などが問題となってくる。更に翼幅方向に翼型が変化することも珍しくない。このように翼型(翼断面)という2次元(平面)以外の要素も考慮するときの翼を3次元翼と呼ぶ。
回転翼
ある軸を中心に回転して相対速度を得る翼を回転翼という。揚力を発生する原理そのものは固定翼と変わらないが、翼自体が回転することで(も)周囲の流体との相対速度を得られる(すなわち、揚力を得られる)という点が異なる。
一般に回転翼と呼ばれるものは、回転軸が細長い翼状物体の一端にあるもので、ヘリコプターのローター・飛行機や船のプロペラ・カエデの種子などのようなものを指す。この場合、回転軸側と先端側で流れの速度に差ができるため、ねじりを付ける・位置によって翼型を変えるといった対策がとられることが多い。詳しくはプロペラ・ローター・タービンを参照。
一方、このような円盤面内運動でなく水車のような回転をする翼も存在する。こうしたものは、あまり回転翼とは呼ばれることはない。
航空機と翼
航空機、特に浮力でなく動的揚力を利用して飛行する重航空機にとって、翼はエンジン以上に重要な必須の装備品である(たとえば、グライダーにはエンジンがないが、翼はある)。歴史的経緯についての詳細は飛行機の歴史などを参照されたい。
- 高揚力装置
- 揚力の大きさは飛行速度の 2 乗に比例する(揚力参照)ため、低速とならざるを得ない離着陸時には飛行速度を上げる以外の方法で充分な揚力を確保する必要がある。このために使用されるフラップなどの装置は高揚力装置と呼ばれる。詳しくはリンク先を参照。
- 翼の構造
- 航空機の翼構造は、胴体など他の部分の構造と同様、時代とともに変化してきている。詳しくは飛行機#主翼などを参照。
生物と翼
生物がもつ翼や翼状の器官について簡単に紹介する。飛翔や遊泳も参照。
翼構造は動物ではほぼ、揚力によって飛翔時の上向きの力および推進力の発生、または遊泳時の推進力の発生を行う器官として進化したものとみなせる。翼を羽ばたかせる場合と、翼は固定して滑空する場合とに大別される。植物では種子散布の際に散布体の植物体からの落下速度を遅くする機能を持つ揚力の発生装置として、種子や果実の一部に発達するものが多い。
植物の種子散布器官としての翼や、動物の遊泳器官としての翼は、実に様々な系統で生じているためその進化史はあまり明瞭ではないが、翼の羽ばたきによって飛翔する動物の進化史は、その能力を獲得できた生物が比較的限られていることもあってある程度その大まかな枠組みが明らかになっている。
翼の羽ばたきによる自律飛行を最初に行った動物は古生代の昆虫であり、この能力の獲得が昆虫の今日の繁栄のひとつの要因であったと考えられている。また、無脊椎動物で羽ばたきによる自律飛行能力を獲得したものは、今日まで昆虫以外にはない。
中生代になると脊椎動物にも羽ばたき飛行を行う翼の持ち主が現れた。現在のところその最初のものは翼竜と考えられており、三畳紀の中ごろのことであったと考えられている。また、恐竜の系統の一部から飛翔するものが現れてそこから鳥が生まれたのはジュラ紀と考えられているが、羽毛を持つ恐竜や自律飛行段階に到達した小型恐竜の存在が認識され始めたのはようやく20世紀末から21世紀初頭にかけてであり、恐竜-鳥系統の動物で羽ばたき飛行がいつ、どういうプロセスで始まったのかは未解明な部分が多い。最後に登場した羽ばたき飛行を行う脊椎動物は哺乳類のコウモリであり、新生代の第三紀のことであったと考えられている。
また、こうして発達した生物の翼を航空機に応用する試みも度々行なわれている。
空気中で機能する翼
- 昆虫の翅
- 胸部の背中の外骨格が伸びて発達したもので、原則的に昆虫は2対の翅をもっている。詳しくは昆虫の翅を参照。
- 翼竜の翼
- 比較的アスペクト比の大きな膜状の翼だったと考えられている。翼竜も参照。
- 鳥の翼
- 羽根などを参照。
- コウモリの翼
- コウモリを参照。
- 滑空する動物
- 以上の動物は全て動力飛行(羽ばたきによる継続的な上昇飛行)が可能だが、滑空のみが可能な動物も存在する。ムササビ・モモンガ・フクロモモンガ・ヒヨケザルは脚の間に張った膜状の翼で飛行する。リスの項も参照。またトビトカゲは肋骨で支えられた皮膜を広げ、滑空する。トビウオは胸ビレを広げて滑空する。トビイカは先尾翼(カナード)を備えるとともに、脚と粘液で楕円平面形の翼をかたちづくって滑空する。
- 植物
- 植物の果実には、動的揚力を利用して落下速度を減じているもの(翼果)がある。ほとんどは一種の回転翼を備える。カエデの種子が有名。特殊なのがインドネシアのウリ科植物 Zanonia Macrocarpa で、これは無尾翼のグライダーである。
水中で機能する翼
翼を利用するスポーツ

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