
この一冊には「犬神博士」と「
超人鬚野博士」の二作品が収められている。
別の作品でありながらも連作のように思え、更にはそれが何の違和感をも抱かずに読み次ぐことができるから不思議だ。
おもしろいのは、この作品に登場する人物であるが、犬神博士こと大神二瓶は「勇敢仁平」といわれた実在の大野仁平から名前を借用しているのではと思える。玄洋社の楢山到などは頭山満のことと思うが、その頭山満の盟友である奈良原到(至)の名前をもじったものだろう。
そういう事を想像しながら読み進むと、夢野久作の周辺には話題に事欠かない人々がたくさん居たことを羨ましくも思うことがある。頭山満、大野仁平、奈良原到と夢野久作の作品である『近世怪人伝』に登場する実在の人々だからだ。
しかし、そういった奇人、怪人もなんのその、ついついこの作品のおもしろさに引き込まれて、ページをめくる時間が到来するのが待ち遠しかった。
赤坂憲雄氏も書いておられるが、宮本常一の『忘れられた日本人』を彷彿とさせるものだった。旅芸人の偽の親子が村から村、街から街へとわずかな銭を稼ぐために旅をする光景は古い古い、日本の風景として浮かび上がってくる。
ストーリーとして楽しむこともでき、社会の問題として捉えることもでき、そして、もはや歴史の背景として読み解くこともできる作品である。
が、しかし、眉間に皺をたてずに楽しく読んでこそ夢野久作の作品と思える。
(佐々木昇 さんのレビュー)